スタートアップにとって、コインチェック騒動は他人事ではない
エンジニアやスタートアップの界隈の人は既にご存知だと思いますが、コインチェック社の580億円消失騒動がありましたね。
最近のテック・スタートアップ界隈においても、最大級のネガティブインパクトのある事件だと思います。
これに対して、インターネット上では様々な意見が交わされていて、「若者の作った大学生ノリの会社なんか信用してはいけなかった」とか「仮想通貨の危うさが露呈した」とか「セキュリティが最大の強固さでなかったのが原因だろう(意訳」といった意見があるみたいです。
一方で、こういった見方は感情的には理解できるものの、問題の本質ではないように思いました。
少なくとも、新しいサービス・価値を享受する側ではなく、新しいサービス・価値をつくる側、つまりスタートアップで働く側の人間はもう少しこの問題を深く掘り下げて本質的に理解しておく必要があるなと思ったので、自分なりの理解を書き残しておきたいと思います。
問題をどう理解したか
この騒動で最も重要だと感じたのは、特定の会社や技術・市場によらず、未成熟な状態から一気に急成長する技術・市場は同じような状況に陥る可能性がいつでもあるだろう、ということです。
こう考えるポイントは、技術・市場が成熟していく過程と、ソーシャル時代の情報流通スピードにあります。
技術・市場が成熟していく過程
まず、今回のような問題が起きた要因のひとつとして、仮想通貨を取り巻く技術・市場が(特に国内において)未成熟である、という点は無視できないと思います。
数年前の話にはなりますが、マウントゴックスの消失事件などもありましたし、
コインチェックの件についても、ホットウォレットで管理されていた点やマルチシグが実装されていなかった点を「セキュリティの甘さ」として追求されていることや、仮想通貨交換業者登録の認可が下りていなかったことからも分かる通り、この市場には完全なセキュリティを備えたプレイヤーでなくても参入できるという現状があります。 そもそもとして、この分野における完全なセキュリティというものがなにか、まだ誰もわからない状態にあるのかもしれません。(このあたりは詳しくないので多分に想像にすぎませんが)
こういった仮想通貨技術・市場を取り巻く状況に対して、「事業者なのだから、未成熟であったという言い訳はきかないだろう」という指摘はごもっともと思いますが、現実として未成熟である、という点は否めないと思います。
そして、技術・市場が成熟するためには、必ず辿らざるを得ない、回避できないプロセスがあると思います。
それは、失敗を繰り返し強固なシステムをつくりあげる、というプロセスです。
この前提にあるのは、(個人としても、組織としても、市場としても)事前に全てのリスクを想定し全てのリスクを回避することは不可能である、という事実です。
よく仮想通貨の安全性と比較して銀行や証券といったシステムが挙がりますが、銀行や証券といったシステムも、それが登場したばかりのころは色々な問題を抱えていたであろうことは間違いないと思います。失敗を繰り返し、長い時間をかけてひとつひとつ問題解決をしてきた結果、今のような強固なシステムをつくりあげたのだと思います。
そして、仮想通貨やその周辺の技術・市場に関しては、今はまだ強固なシステムをつくりあげていく途中のフェーズにあります。
そういったフェーズであるにも関わらず、大きくマスに普及し、大きなリスクが表出しやすい状態に至ってしまったことが、今回の騒動が大きくなってしまった原因だと思います。
ソーシャル時代の情報流通スピード
現代は昔に比べて、リスクの大規模表出が起きやすい状態にあると思います。そう思う主因は、情報流通スピードの違いです。
銀行や証券のシステムができた当時と、仮想通貨が登場した現代は、情報流通のスピードが桁違いです。 技術・市場が成熟していくために必要な小さい失敗を積み重ね、強固なシステムをつくりあげるよりも前に、SNS等の拡散力によって物凄い勢いでマスに広がってしまいやすい状況にあります。 (今回の件に関しては、まだリスクに見合うだけの成熟したシステムが出来上がっていないにも関わらず、マスメディア(CM)による更なる成長の加速を図ったという点は、コインチェック社の犯した大きなミスのひとつかなと思いました。)
つまり、技術・市場の(規模)成長スピードが技術・市場の成熟スピードを追い越してしまいやすいのです。
一般的に、利用者が多くなればなるほど、市場が大きくなればなるほどリスクは表出しやすく、大規模化しやすくなりますから、まだ未成熟で強固なシステムが出来上がっていないサービスがマスに広がってしまえば、大きな問題が起きやすくなるのは必然です。
スタートアップが肝に銘じておくべきことはなにか
上述してきた通り、技術・市場の流通規模に対して技術・市場の成熟度のバランスがうまくとれなければ、仮想通貨に限らず、どんな技術・市場も今回のような問題を引き起こしてしまう可能性を孕んでいると言えると思います。
スタートアップ界隈では「勢い良く成長していること」がもてはやされますし、実際のところ急速に成長しないスタートアップには存在意義がない(というよりスタートアップとは言わない)とも思いますが、成長に見合うだけの成熟度(システムの強固さ)を獲得できているか、はあまり話題にのぼらないように思います。
ここを気にしすぎては新しい発想・新しい事業・新しいチャレンジが生まれにくくなるだろうという思いもありつつ、ここを無視しすぎては今回のような大きな問題を起こしてしまう可能性が高まるのは避けられないだろうとも思います。
いわゆるスタートアップに所属し、未成熟な市場での急成長を目指すプレイヤーの立場として、時には多少の成長スピードを諦めてでも成熟を待ったり、成長スピードに追いつくために成熟度を上げる部分に投資したりといった視点でのマネジメントも必要なのだろうな、と今回の騒動を通して感じました。
自分たちの提供しているサービスはどの程度の成熟度にあるのかをきちんと踏まえながら、闇雲に多くの人に利用していただくのではなく、成熟度に見合った適切な人に利用していただくという運営をしていかなければな、と思います。
最後に
まだどうなるか確定的ではなさそうな感じですが、今回の騒動で資産を失ってしまったみなさん、ご愁傷様です。
(追記)戻ってくるみたいですね!おめでとうございます!